妖精の舞い降りた日

 今日は、妖精が店に舞い降りた。
私の邪悪で不謹慎な心を、きれいに掃除してくれる微笑を携えて。

 恐れ多くも、珈琲豆の焙煎を依頼していただいた。ありがたき幸せ。
 焙煎を待つ間、テーブル席にお座りいただくことに。
 もし、この焙煎に問題があれば、失敗した某国のロケット技術者のようになっても不満はありません。(あの技術者達が、どうなったかは知らないが)
 緊張の10分間。彼女はテーブル席で静かに何かを読んでいる。後ろからは見えない。
 普通のお客さんなら、新聞や雑誌、だいたいは携帯のメールやゲームで時間をつぶすのだが‥彼女に限ってはそんなものは読まない(はずだ)。
 ほとんど、身体を動かさず、姿勢よく静かに。後姿も神々しい。
 何を読んでいるのだろう。純文学か?いや、彼女に似合うのは、ハイネ詩集。いや、ヘッセ詩集でも‥。
 焙煎が終り、珈琲豆を渡しにテーブルへ。彼女が見ていたのは、携帯 だった。
 いや、これは私の様な無粋な目に見えた幻覚だ。うん、そうだ。そうに違いない。今日は家に帰ったら、石鹸できれいに目を洗おう。